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山月記(その3)

原标题:山月記(その3)

表現よみ:森下潤子

時に、残月、光冷 ひややかに、白露は地に滋 しげく、樹間を渡る冷風は既に暁の近きを告げていた。人々は最早、事の奇異を忘れ、粛然として、この詩人の薄倖 はっこうを嘆じた。李徴の声は再び続ける。

何故 なぜこんな運命になったか判らぬと、先刻は言ったが、しかし、考えように依 よれば、思い当ることが全然ないでもない。人間であった時、己 おれは努めて人との交 まじわりを避けた。人々は己を倨傲 きょごうだ、尊大だといった。実は、それが殆 ほとん羞恥心 しゅうちしんに近いものであることを、人々は知らなかった。勿論 もちろん、曾ての郷党 きょうとうの鬼才といわれた自分に、自尊心が無かったとは云 いわない。しかし、それは臆病 おくびょうな自尊心とでもいうべきものであった。己は詩によって名を成そうと思いながら、進んで師に就いたり、求めて詩友と交って切磋琢磨 せっさたくまに努めたりすることをしなかった。かといって、又、己は俗物の間に伍 ごすることも潔 いさぎよしとしなかった。共に、我が臆病な自尊心と、尊大な羞恥心との所為 せいである。己 おのれ珠 たま非 あらざることを惧 おそれるが故 ゆえに、敢 あえて刻苦して磨 みがこうともせず、又、己の珠なるべきを半ば信ずるが故に、碌々 ろくろくとして瓦 かわらに伍することも出来なかった。己 おれは次第に世と離れ、人と遠ざかり、憤悶 ふんもん慙恚 ざんいとによって益々 ますます 己 おのれの内なる臆病な自尊心を飼いふとらせる結果になった。人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。己 おれの場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。これが己を損い、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、己の外形をかくの如く、内心にふさわしいものに変えて了ったのだ。今思えば、全く、己は、己の有 もっていた僅 わずかばかりの才能を空費して了った訳だ。人生は何事をも為 なさぬには余りに長いが、何事かを為すには余りに短いなどと口先ばかりの警句を弄 ろうしながら、事実は、才能の不足を暴露 ばくろするかも知れないとの卑怯 ひきょう危惧 きぐと、刻苦を厭 いとう怠惰とが己の凡 すべてだったのだ。己よりも遥かに乏しい才能でありながら、それを専一に磨いたがために、堂々たる詩家となった者が幾らでもいるのだ。虎と成り果てた今、己は漸 ようやくそれに気が付いた。それを思うと、己は今も胸を灼 やかれるような悔を感じる。己には最早人間としての生活は出来ない。たとえ、今、己が頭の中で、どんな優れた詩を作ったにしたところで、どういう手段で発表できよう。まして、己の頭は日毎 ひごとに虎に近づいて行く。どうすればいいのだ。己の空費された過去は? 己は堪 たまらなくなる。そういう時、己は、向うの山の頂の巖 いわに上り、空谷 くうこくに向って吼 ほえる。この胸を灼く悲しみを誰かに訴えたいのだ。己は昨夕も、彼処 あそこで月に向って咆 ほえた。誰かにこの苦しみが分って貰 もらえないかと。しかし、獣どもは己の声を聞いて、唯 ただ懼 おそれ、ひれ伏すばかり。山も樹 きも月も露も、一匹の虎が怒り狂って、哮 たけっているとしか考えない。天に躍り地に伏して嘆いても、誰一人己の気持を分ってくれる者はない。ちょうど、人間だった頃、己の傷つき易 やすい内心を誰も理解してくれなかったように。己の毛皮の濡 ぬれたのは、夜露のためばかりではない。

漸く四辺 あたりの暗さが薄らいで来た。木の間を伝って、何処 どこからか、暁角 ぎょうかくが哀しげに響き始めた。

最早、別れを告げねばならぬ。酔わねばならぬ時が、(虎に還らねばならぬ時が)近づいたから、と、李徴の声が言った。だが、お別れする前にもう一つ頼みがある。それは我が妻子のことだ。彼等 かれら未 ま略 かくりゃくにいる。固より、己の運命に就いては知る筈 はずがない。君が南から帰ったら、己は既に死んだと彼等に告げて貰えないだろうか。決して今日のことだけは明かさないで欲しい。厚かましいお願だが、彼等の孤弱を憐 あわれんで、今後とも道塗 どうと飢凍 きとうすることのないように計らって戴けるならば、自分にとって、恩倖 おんこう、これに過ぎたるは莫 ない。

言終って、叢中から慟哭 どうこくの声が聞えた。袁もまた涙を泛 うかべ、欣 よろこんで李徴の意に副 そいたい旨 むねを答えた。李徴の声はしかし忽 たちまち又先刻の自嘲的な調子に戻 もどって、言った。

本当は、先 まず、この事の方を先にお願いすべきだったのだ、己が人間だったなら。飢え凍えようとする妻子のことよりも、己 おのれの乏しい詩業の方を気にかけているような男だから、こんな獣に身を堕 おとすのだ。

そうして、附加 つけくわえて言うことに、袁が嶺南からの帰途には決してこの途 みちを通らないで欲しい、その時には自分が酔っていて故人 ともを認めずに襲いかかるかも知れないから。又、今別れてから、前方百歩の所にある、あの丘に上ったら、此方 こちらを振りかえって見て貰いたい。自分は今の姿をもう一度お目に掛けよう。勇に誇ろうとしてではない。我が醜悪な姿を示して、以 もって、再び此処 ここを過ぎて自分に会おうとの気持を君に起させない為であると。

は叢に向って、懇 ねんごろに別れの言葉を述べ、馬に上った。叢の中からは、又、堪 たえ得ざるが如き悲泣 ひきゅうの声が洩 もれた。袁も幾度か叢を振返りながら、涙の中に出発した。

一行が丘の上についた時、彼等は、言われた通りに振返って、先程の林間の草地を眺 ながめた。忽ち、一匹の虎が草の茂みから道の上に躍り出たのを彼等は見た。虎は、既に白く光を失った月を仰いで、二声三声咆哮 ほうこうしたかと思うと、又、元の叢に躍り入って、再びその姿を見なかった。

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